きっとひとりで真赤になる謙也  俺が好きなひとつ上の先輩は、千歳さんよりふわふわしてて、謙也さんみたいにお人好しで、標準語の東京からきたひと。そんな先輩と知り合ったのは用があって謙也さんのクラスにいった時のことだった。
 俺と謙也さんが話しているところに急に入ってきてひとこと、「大阪にも、クールなひとっているんだね」といったことから。最初はなんだコイツ、と思っていたのに、いつのまにやら先輩にハマって毎日あほみたいに謙也さんのクラスに通う。
 あるときは俺の好きなミュージシャンのCDを貸してやったり(意外にも似たような趣味だった)、またあるときは機械オンチな先輩の代わりにアイポッドに音楽を入れてやったりした。先輩が買ったアイポッドには俺と同じ曲が入っている。それがすこしうれしかった。

「光くん」

 先輩は俺のことを名前で呼ぶ。なんでも、そっちのほうが好きだから、だとか。名前を呼ばれるたびに緊張する俺はあほだ。今だって、涙声で名前を呼ばれて心臓が跳ねた。先輩の顔をみればさっき映画館を出たときから止まらない涙が頬を伝っていた。始めて謙也さんのクラス以外で会うことができたのに、なんて様だ。俺はちいさく「すいません」と謝った。

「ううん。光くんが謝ることじゃないよ」
「そんなに泣かれながら言われても説得力ないッスわ」
「んー」

 先輩はやっと泣きやんだらしく顔をあげた。この映画を選んだのは失敗だった。先輩と俺は趣味も似ているし、お互いこの映画を見たがっていたからわざわざ前売りのチケットを買ってまで先輩を誘ったのに。(しかも誘えたのは有効期限のぎりぎりになってから)予告編をみるかぎりではバッドエンドっぽくなかったのに、まさかこんなにひどい結末なんて。
 先輩は目の前にあったラテを飲んだ。カップを持つ手はとても小さい。ここのカフェも先輩に喜んで欲しくて一所懸命に探して見つけたところだ。結構な穴場で、俺達が入ったときは昼時だったにも関わらずスムーズに席に着くことができた。先輩はガラスから外を見ていた。ながいまつげに縁取られた目がこっちを向いたとき、俺のココアはもう底をついていた。

「ねえ光くん」
「なんすか」
「さっきの映画、もう一回みたくない?」
「……は」

 けど先輩、めっちゃ泣いてたじゃないッスか、というと、先輩は、「だって、もう一度みたらハッピーエンドになりそうじゃない?」といった。

「なんスか、それ」
「や、ハッピーエンドになってほしいな、っていう希望?」
「……変な人」
「知ってる」

 ふふ、と先輩がわらった。あ、俺、このひとのこと、めっちゃ好きや。そう思えばもう黙ってはいられなくなって。

「先輩」
「なあに?」
「俺、先輩のこと、好きです」
「うん、わたしも光くんのこと、好きよ」
「……ほんまですか」
「うん」
「じゃあ付き合ってくれるんすか」
「よろこんで」
「……先輩」

 俺はテーブルに身を乗り出して、潤んだ目で俺を見る先輩にキスをした。目を閉じる直前、ガラス越しに見慣れた金髪が視界に入った気もしたけど、まあ、いいか。

ハッピーエンド
(おまけ)
(ざざ、財前、お前きのう……!)
(あ、あれやっぱ謙也さんやったんすか)
(気付いてたんか!)