そういえば今年のエイプリールフールは嘘つかなかったなあ、と今更になって思いだした。いまはゴールデンウィーク真っただ中。一カ月遅れだけどちょっと嘘でもついてみようかなあ。携帯を開いてターゲットを吟味。白石は騙されなさそうだし……、ケンちゃん騙すのは気が引ける。ユウジも騙されなさそうだし財前なんかもっと無理だろうなあ。小春ちゃんと金ちゃん、銀さんもだめ。千歳は? ……騙されなさそう。あ、そうだ、謙也。あいつなら騙されそう。

 さっそく謙也宛てにメールを作成。どんな嘘にしようかな。
 三分ほど考えた結果、告白してみることにした。ずっと前から好きでした、と打って、送信。さあ、どんな返事が返ってくるんだろう。
 携帯を置いてベッドに横になる。いつの間にか夢の中にいた。



 あたしを起こしたのはガンガン、と扉をたたく音。え、なにこれ、こわいんだけど。警戒しつつも玄関へ向かう。覗き穴からのぞいてみるとそこにいたのは謙也だった。なんだ謙也か。そう思って鍵を開ける。あたしが扉を開ける前に謙也が勢いよく扉をひいた。不意を突かれたせいで前に倒れ込んだあたしを謙也が支える。
 あれ、これってもしかして抱きしめられてない?
 謙也はなにも言わない。ちょっとどうしたの、と言おうとしたら謙也の方が先に口を開いた。

、俺も、お前のこと好きや」
「……は」
「メールしたんやけど……、返信ないから心配で来てもうたわ」
「え、いや、何?」
「なあ、キスしてもええか?」
「はあーっ!?」

 あたしの声を無視して顔を近づけてくる謙也。意外にも力が強くてふりほどけない。どうしよ、と思っていると唇が触れた。不思議と、嫌じゃなかった。
 何回も繰り返す。嘘をついたことなんて忘れていた。頭の奥底で、もしかしたらあたし、謙也のこと好きだったのかも、という気持ちが、だんだんと、ああ、あたし、謙也のことが好きだ、という思いに変わって行って。
 唇を離したあとに「いきなり、どうしたの?」と聞いてみると、今度は謙也が「はあっ!?」と驚いたようにいった。そうして携帯を取り出して、あたしがすっかり忘れてしまっていたあのメールを見せてくる。あ、そういえばそんなの送ったっけ、と思ったあたしは言った。

「え、本気にした?」