「え、うそ、え?」「……あほ」 久しぶりに雪が積もった。朝早く家を出て、まだ足跡のついてないない白に自分の足跡を残すのも気分がいい。学校につけば遠山があほみたいに騒いでいたけれど、それも許せるくらいに今日は気分がいい。

授業を終えて、雪のせいでコートが使えないために筋トレをやって部活も終わった。朝よりも大分減ってしまったけれど、まだ残る雪をふみながら歩く。もう日は沈んでしまっていた。耳に突っ込んだイヤホンからは、英国の音楽が流れている。結構な音量で聞いていたから後ろから近づく足音にはまったく気がつかず、いきなり視界がふさがれてやっとその存在に気づいた。

「だーれだ」

たぶん、この人は俺がわからないと思っているんだろう。そんなの、声を聞いた瞬間にわかってしまっているのに。俺はイヤホンを引き抜いてため息まじりに「さん、でしょ」と答えた。

「あたりー」
「なにしてん、もう暗くなってますよ」
「財前にね、やってほしいゲームがあったから、待ってた」
「ゲーム」

 俺がそう繰り返すと先輩は笑って。ゲームなんていうから携帯ゲームかと思ったけれど違うらしい。さんは俺の目をじっと見つめる。まわりに人もいないしいっそキスでもしてやろうかとか思っていたらその唇が歪んだ。ちょっと遅れて頭に流れ込んだ「あいしてる」の五文字は最初は何の意味も持たず。それが「愛してる」だと気付くのに時間がかかった。(が、結果的にはそれでよかったらしい)

「あー、やっぱ照れない」
「は?」
「これね、愛してるよゲームっていって」

 目を見て愛してるっていって、照れた方が負け。それがルールらしい。「不意打ちだったらちょっとは照れると思ったのに」と先輩は言う。実際照れてないなんてことはないけれど都合よく勘違いしてくれて、本間にあほな先輩。

「じゃあ今度は財前の番ねー」

 そういった先輩は、俺が口を開く前に「まあいやっていうと思うけど」と言い放った。それがあまりにもむかついたので先輩の腕を掴んでこっちを向かせる。足元の雪のせいですべったらしく悲鳴をあげてから振り向いた。顔を背けられないように、俺の顔をずい、と近づけてやる。びっくりしているらしい先輩の目が間近にあった。

「ざいぜ、」
「愛してます」
「……えっ」

 傾いていた体をちゃんと立たせて、赤くなった顔を見られないように先を急ぐ。後ろからはさんの、「うっわ嘘でしょ」という呟きが聞こえてきた。

「うっわ嘘でしょ」