「うん、好き」  今日はいい天気。そう思ったら足が勝手にここへきていた。学校で一番空に近い場所だ。ぐっとのびをすると背中がぽきぽきっと音をたてた。いいところなんだけど、昼寝するにはちょっと向いていないらしい。そろそろ教室行こうかな、と思ったら俺のポケットの中の携帯が震えた。
 「今どこ」、それだけ、句読点もはてなマークもつかないで記されている。送信者は。桔平かなあとも思ったけれど。からこの文章が送られてくるってことは、と考えて顔が弛んだ。おくじょー、とだけ返信。すると、ものすごいいきおいで俺の下にある――俺は屋上の、出入り口の上にいる――扉が開いた。

―」
「……そこかあああ!!」

 ひょこ、と顔をだせば、汗だくになったがいた。の身長ではここには乗れないだろうから、ぴょん、と飛び降りる。着地して、たぶんも話があるだろうからそこに座った。するといきなり頭をはたかれる。音はしなかった。

「いたかー」
「あんたね! いるんならいってよ!? どんだけ探したと!」
「寝てたもん」
「っあー! もう!」

 そういっては俺の頭を両手でわしづかみにしてわしゃわしゃしだす。「こん中は綿か!? 綿でもつまってんのか!?」とかいいながら。

「綿じゃなかとよー」

 あはは、と笑ったらも気が抜けたらしく、大人しく俺の隣にしゃがみこんだ。「また負けた……」と、くやしそうにが呟く。

 俺達のこの不思議な関係が始まったのは、俺とが同じクラスになってからだ。
 今じゃ重要な授業じゃない限り探されることはなくなったけれど、新しいクラスになった最初のころはよく俺は探されていたものだ。みんなが俺を見つけられずにいる中で、だけが俺を見つけ出した。

「あたしの、勝ちだね」

 始めて俺を見つけたときの、あのの表情はいまでもよく覚えている。
 その日はクラスで称えられたらしい、けれど、それ以来俺を探すのはになってしまって。最初の内はすぐ見つかったりしたけれど、俺もだんだん、が見つけづらいような場所へいったりするようになった。駐輪場の屋根の上、鍵のかかっている教室(実は窓が一か所壊れているのを発見した)、その他いろいろ。最初は桔平の携帯から「今どこ 」とメールがきて。だんだんそれが続いて、携帯嫌いながようやく携帯を買って。

 そうして今に至る。俺との追いかけっこ(かくれんぼ?)は相変わらず。
 変わったのは、桔平がいなくなったことだ。あの日からなんとなく、桔平からのメールを待っていたりする。俺からは、まだ、送れず。

 ぼおっとしていたらが「あーっ!」と大声を出して立ち上がった。続いて俺の手をとって、早く! と急きたてる。

「なんねー?」
「終業式! あたし、そのために千歳呼びに来たのに!」
「えー、もうよかやん」

 それでもが「だめ」だというので俺は仕方なく立ち上がった。



 それが、二年の終わりのこと。
 今日は三年の始まり。着なれない新しい制服は、あんまり前と変わらない。
 には転校することはいわなかった。だからは俺がいないことを知らない。携帯が震えた。手にとって開くと変わらない「今どこ」の文字。
 携帯を操作して、一度もかけたことのない番号に電話をした。二回、コールして。聞こえてきたのは、あの懐かしい声。

「おー、
「千歳! あんた今日はどこにいんの!!」
「大阪―」
「わかっ……、えっ」
「だけん、大阪におる」
「大阪、って、」
「転校したとよ、俺」
「……そんな、知らない」
「いってなかけん、当然たい」
「……っなんで、」

「そんな、あたしがどんな思いで」
「俺、のこと、好きかもしれん」

 がいいかけたことを遮っていうと、「ずるい」と涙声で返事が聞こえた。桔平が転校する直前に、送ってきたメールを思い出す。「お前、のこと好いとっとね」というメールに、俺はまだ返事をできずにいた。

「あはは、嘘。俺、のこと好いとおよ」
「そんなん、あたしだって、好きだよ!」

 最後の方は叫び声だったからちょっと耳が痛かった。
 電話を切ったあと、あのメールを探して、返信ボタンを押して。長い間返せなかったメールを返した。


「今どこ」