小春ちゃんは知っている 「何でなん……」

 そう言ってつくえに突っ伏しているのはユウくん。さっき教室に帰って来てからずっと「何で」を繰り返してる。陰気なオーラが立ち込めてクラスメイトも困惑してる。ちらちら視線も感じて、これってあたしにどうにかしろってことやろうね、とのんきに思ってみる。ユウくんはあたしに縋りついてはこなかった。

「何で……何でなん……告白流されるとか……」

 まあなんとかなるでしょ、と放っておいたら、落ち込んでいる理由らしいものをだらだら口から流し始めた。なんかこう、絵にしたら魂がでてそうな感じで。
 告白、なんていっているから、きっとのことね。ユウくんはずっと前からのことが好きだったから。あたしにアタックしてくるのなんて行きすぎた友情が八割、への照れ隠しが二割、なんて具合だし。
 ぶつぶつぶつぶつ、念仏みたいに聞こえてくるそれを解読してみれば、どうやらユウくんはに告白したみたい。ユウくんにしたら大きな進歩じゃないの。いままで会ったら喧嘩ばっかり、たまに向こうがやさしくしてくれてもつんつんして。
 それでもどうやらその告白は流されてしまったらしい。というより気がついてもらえなかったみたいね。きっとユウくんのことだから、ものすごい遠まわしにいったか小声でぼそっと呟いただけでしょ。そんなん気がつかれないの当たり前やん。

 でも、だってユウくんのこと好きなのにね。
 きっとおかしかっただろうユウくんの様子を思い出して、いまごろやっと告白に気付くんや。ああ、ほら顔を真赤にしたがこっちに走ってきとるやないの。

 ほんとにもどかしい二人なんだから。ユウくん、そろそろそのだらけた顔なおさないと、来ちゃうやろ。ばあん、と凄い音がして教室のドアが開いて。それでもユウくんはまだぶつぶついっていた。

「ユウジ! もしかしてさっきのって告白!?」
「……はっ!?」
「だからさっきの!!」
「えっ、おま、今頃気がついたんかあほおおお!!」
「えええ嘘!」
「嘘やない! 人がどんだけ勇気使たと思ってんねん!! 顔見ろや真赤やぞ!!」
「何で!?」
「そっちこそ何でいま気付くんやあ!!」
「だってユウジは小春ちゃん……えええ……」
「失速してんなあほ! 俺まで気い抜けるやろ……」
「えええ……てゆうかあたしだってすきだよ……」
「俺のほうが好きやぼけ……」

 ふたりともお疲れ様。今度はふたりして魂抜けちゃって。
 ぱちぱち、とどこかから拍手が聞こえて。それに共鳴して教室全体が拍手に包まれた。

 ほんとうにおめでとう、ユウくん。


「何で」