ドリーム小説

 重たい足を引きずりながら帰宅して、戸を開けようとしたら鍵が開いていなかった。そういえば今日お母さんいないんだっけ。鞄の中をひっかきまわして鍵を取り出して、ああもう疲れた、と思いながら戸をあけて中へ入る。
 誰もいないのに「ただいま」と言ってしまうのはもうしょうがない。靴を脱ぎながらまたため息をついた。

「おかえりー」
「あーうんただいま……うん?」

 おかえり、とあんまりにも当然に返ってきたので一瞬驚くのを忘れてしまった。だれいまのお母さんじゃない。呆然としていると見慣れた風景の中に見慣れないものがあるのに気付いた。大きいし動かないしこの家にちゃっかり馴染んでるしで気付けなかった。その男はにこにことまぶしいほどの笑顔を浮かべてわたしを見ている。なんでここに、といえばテストで学校が早く終わったから、と返ってきた。

「でも不法侵入……」
「鍵合いとった」
「鍵かけてくれたのね……ありがとう」
「うん」

 千歳はまだにこにこにこにこしながら、すっとわたしの荷物をとりあげて「―」とへにゃっと笑いながらいってわたしをぎゅっと抱きしめた。
 大きい手がわたしの頭をやさしく撫でて、わたしも千歳の頭を撫でようと手を伸ばしたけれど届かなかった。

「はあー、なんかもう気が抜けた」
「よかよかー」
「それ言われるとほんとになんでもよくなる気がする」
「えへへ」

 首が痛くなるほどに顔をあげて見あげるとやっと千歳と目を合わすことができた。両手を頭に向かって伸ばすと、ちょっと顔を傾けて手が届くようにしてくれる。髪の毛をわしゃわしゃしながら「ありがとね、千歳」とちいさく呟いた。

「んー?」
「いや、別に」




「いや、別に」