「ぃよっしゃあああ!」「うるさいわ」 かんかんかん、と金づちが釘を打つ音が聞こえてくる。得意のスピードでもう作品を作り終えてしまった俺は、隣で丁寧に釘を打っている白石を眺めた。
 長いまつげ、日焼けをしていない肌(テニスやってるくせに)、切れ長の目、高い鼻、……確かに女子がきゃーきゃーいうのも頷ける。はあ、とため息をひとつつくと、ちょうど釘を打ち終えた白石と目があった。

「どうしたん」
「いやな、白石ってやっぱイケメンやなあと思って」
「当たり前や」
「当たり前なんかい!」
「そうや」
「……はあ」

 「ため息ついててもイケメンにはなれんで」といいながら白石は最後の釘を打ちにかかった。一寸の狂いもなく完璧に作られている棚はそこにある誰のものよりきれいだった。かんかんかん、と規則正しく音が響く。
 この教室に女子の姿はない。いまの時間、男子は技術、女子は家庭科、という風に別れて授業をやっているのだ。確か家庭科はクッキーを作るとかいっていた。きっと今日の白石のげた箱やロッカーは大変なことになるんだろう(本人はげた箱に入れられた食べ物は不衛生だ、とかいっているが)。椅子の後ろ足だけでバランスを取ろうとして暇をつぶした。バランス、ちゃんとトレーニングせなあかんなあ。

 白石が釘を打ち終わって片付けも終えて、席に戻った瞬間にチャイムが鳴った。技術室を出て教室に戻る。その道の途中ですら白石は女子からクッキーをもらっていた。笑顔で「おおきに」と返せばきゃあきゃあ女子が騒ぐ。やっぱり女は白石みたいなんが好みなのか。

「大漁やなあ」
「こんなに食べきれるわけないやろ」
「うっわ嫌味!」
「いやほんまに。あ、そういや謙也、お前、ちゃんとさんにクッキーくれって言うたん?」

 、と名前がでてどきっとした。俺の好きな奴の名前だ。なぜか俺の恋はテニス部のみんなにばれていて、まあみんな協力してくれるんだけれど。
 結論から言うと、クッキーをくれ、とは言わなかった。言えなかったのではない。あいつを目の前にして素直になれるわけもなくて、それを俺もわかっていて、つい「ちゃんとした味するか評価したる」と半ば挑戦状のように言ってやっただけだった。(あれ、これって言えてないってことなんか)
 それに対して向こうも「だったらからしとか入れてやる」といっていたのでお互い様(白石には俺が悪いと言われた)だと思う。

 教室に着くまでの姿は見かけなかった。白石の腕の中の貢物はどんどん数を増やしていく。教室に入って、うんざりしたように白石がため息をついた。と同時に、教室にもいないを探しては俺もため息をつく。見事なシンクロや。

「謙也―、部室いくでー」
「おー」

 ちょうど昼の時間だったため、弁当を食べに部室へ向うことになった。ロッカーの中にある弁当箱を求めて扉を開ける。ぐちゃぐちゃなそこに、ちょこんとちいさい包みが置いてあるのを見つけてびっくりした。三時間目につかった数学の教科書に埋もれていた弁当箱を引きずり出して、その包みも一緒にとりだす。それにはちいさなメモが添えられていた。メモには「味の保証はしない」との文字が、女の子特有の丸っこい字で書かれていた。

 もっとロッカーの中綺麗にしとけばよかった、と後悔しながら、それでもうれしくて笑みがこぼれた。またもや女子からクッキーをもらっている白石を少し強引にひっぱって走り出す。
 クッキーはめっちゃうまかった。


「味の保証はしない」