きゅーってしてふわふわ

午後の少し気だるい雰囲気が校内をつつむ。天気はいいし、きっと生徒たちは睡魔と戦っているところだろう。
 今日は保健室の先生がいないため、何人かの先生が交代で保健室にいることになっていた。午後は俺の担当になっているので職員室を出て保健室に向かう。
 静かな廊下を歩いていたらあくびがでた。そういえば昨日はあまり寝ていない。いっそ保健室で寝ていようかと思いながらそこに入った。

「お?」

 誰もいないだろうと思って入ると、ベッドには男子生徒がひとり、カーテンもひかずにぐうぐう寝ていた。あの頭とでかさから考えて千歳だろう。利用者カードを見てみたがそこには何も書かれていなかった。何も書けないほど重症なのかそれともただのサボりなのか。一応カードに名前を記入してやっているとがさ、と音が聞こえてきた。

「んあー……」
「おう千歳、具合悪いんか?」
「あー、オサムちゃん」

 ベッドに座って伸びをしていた千歳は、俺を見るとへにゃりと笑った。どうやら具合が悪いわけではなさそうだ。書きかけの利用者カードとボールペンを持って千歳のいるベッドの隣のベッドに腰かける。これ書いとけ、と手に持っていたカード達を渡すと、「めんどくさかねー」とかいいながらも書き始めた。学年と名前は書いておいたから、あとは症状を書くだけだ。

「あい」
「おう」

 手元に戻ってきたカードには千歳の字で「むねがどきどきする」と書いてあった。

「大丈夫かー?」
「なんかねー、むねがどきどきして息が苦しくてなんかこう、きゅーってなる」

 そういって千歳はまたベッドに倒れ込んで枕に顔を埋めた。大丈夫か、としばらく見ていたら千歳が何かを呟いた。人の名前のようだったが聞きとれない。そうしていきなりがばっと起き上がった千歳は、「せんせー」とめずらしい呼び方で俺を呼んだ。

「はいなんでしょう」
「俺ね、最近よくむねがどきどきすると」
「おう」
「そんで、きゅーってして苦しくて」

 自分の胸に手を当ててジェスチャーしていた千歳の顔は切なげで、でも次に俺に向き直った時はえらく真剣な顔をして、言った。


「これって、恋?」


せんせいしつもんです。