おそろい
 最近は雨ばっかりでつまらない。だからめずらしく学校にちゃんと行っていた。でも授業を聞いてもつまんないのでぼーっと空を眺めている。黒い空からはざあざあ大粒の雨。じめじめしているからただでさえ癖っ毛の髪がさらに広がった。(そんなに気にしていないけど)
 湿気を含んでちょっと湿ったノートに落書きをする。もうそこにはトトロがいて、その隣に斜め前にいるさんを書いてみた。ついでに上の方にお日様も書いてみたけれど外の天気は変わらない。俺は仕方なく黒板に目を移した。



 ようやく全部の授業が終わって、雨も少しおさまってきた。今日は部活もないので久しぶりに散歩でもしよう。俺は学校をでると家とは反対方向に歩きだした。
 内側にプリントされたトトロと目があう。この傘はお気に入りだ。外からはわからないけれど中にはトトロと猫バスの絵が描いてある。なんとなくくるくると傘を回した。今度は猫バスの後ろ姿が目に入った。

 山のような木の多いところにそって歩いて、だんだんと人影が少なくなっていく。雨脚も少し強まった。下駄をはいた足で水たまりにつっこんでは足が濡れる。でも気にしないで歩いた。



 そういえばさんとはじめて会話したのもこんな日だった。
 その日の俺は傘を持っていなくて、散歩していると急に降り出したものだから困っていたところにさんが声を掛けてくれたのだった。場所はそう、この先にある、今はもう使われていないバス停。
 いちおう学校のある日だったけれどなぜかさんはそこで何かを待っていた。ううん、何かじゃない。あの日彼女から直接聞いたんだ。さんは、あそこでトトロを待っていた。

 傘に入れてもらって、その傘が俺の使っているのと色違いであるとわかった。俺がその絵を眺めていると彼女は「トトロ、好き?」と聞いた。俺は「すき!」と即答したはず。そうしたらさんは、にっこりとわらって「ここにいたら、トトロに会える気がして」と言った。

 俺の足はあのバス停に向かう。会いたいのはトトロなのかさんなのかはわからない。坂を上っているとバス停が見えてきた。あの日と同じ、傘をさしてバスを待つようにしてなにかを待っている人がいる。近づいていくとそれはやっぱりさんだった。またトトロを待っているんだろうか。
 傘が触れ合う直前まで近づくと彼女は振り向いた。

「また会えたね」
「うん」
「傘おそろいね」
「そうたい。さん、今日もトトロばまっとっと?」

 彼女はこくんと頷いて、それから俺の鞄についている小トトロのストラップを手に取った。

「そうだね、トトロを連れた千歳くん、を待ってた」

 そういってさんは笑って、「あ」と小さく声を上げる。空を見上げて傘をたたんだ。雨はもう上がって、雲の切れ目から光が差し込む。俺も傘を畳んで歩き出した。隣にはさんも一緒に。なんとなく手を握るとさんもきゅっと握り返してくれた。道路に響くのは下駄の音と、二つ分の傘をつく音だけだった。


となり