ユウジのやさしさ

〜、大丈夫かあ?」
「うう……金ちゃんありがとう……」

 そういえば今月遅れ気味だったなあ、とか思っていたらものすごい痛みに襲われた。元から生理痛は重い方で、学校もこれなくなったりもするくらいだ。加えてこの蒸し暑さのせいで気分は最悪。当然部活なんてできなくて陰でうずくまっていたら休憩になっていたらしく金ちゃんが駆けつけてくれた。

 銀さんと千歳が試合をやるっていうんで審判をやっていた時、急に痛みだしてみんなを驚かせてしまった。最初は我慢しようと思っていたんだけど白石が気付いてくれて、椅子から降りれなくなっているわたしを銀さんが助けてくれた。そのおかげでいまこうして木陰で休めてるんだけど、痛みが引かないことには帰れもしない。(わたしは今ひとり暮らしなのだ)

「ほんま大変やなあ」
「うん……」
「なんか悪いもんでも食ったん?」
「んー……」

 わたしが答えを戸惑っていると、「いましんどいねんからそっとしとき」と白石が謙也に言った。さすがお姉ちゃんがいるだけあってよくわかってくれる。
 薬はあるんだけど部室に置いてある鞄の中で、耐えているだけの時間が辛い。本当は部室にいって横になりたいんだけど痛みの波が引かなくて動けなかった。

「みんなごめんね……」
「気にせんでよかよー」

 そういってみんなはまた部活へと戻って行く。あついなあ、でも歩けない。どうしようどうしよう、と思っていたら上から「おい」と声がふってきた。

「んー……一氏?」
「ほかにだれがおんねん」
「んー……」
「……そんなにしんどいんか」
「うん」
「なにしたん、そんな具合悪うなるなんて」
「んー?」
「拾い食いでもしたんか」
「ちがうよー」
「……それやったら便秘か」
「それもちがうー」
「じゃあなんや」

 白石たすけて、と心の中で思ったけれどだめだった。わたしが答えないでいると一氏はすこし苛立ったように同じ質問をぶつけてくる。あつさとおなかの痛さでもう限界だったわたしは仕方なく、ちいさいこえで「生理痛」と答えた。

「せ……あー」

 気まずい沈黙が流れる。はやく部活いきなよ、と言おうと思って顔をあげた。

「ひと」
「じゃんけん」
「え?」
「ほら、はよう」
「うん? え?」
「いくでー、さーいしょっ、」

 とっさに手を丸めてグーにしてだす、が一氏が出したのはパーだった。「勝ったからゆうこときけや」となんとも自分勝手なことをいった一氏は、かがんでわたしの耳元で「目、つぶってじっとしてろ」といった。

「なにする、の」
「ええから」

 すると急に体がふわっと浮く。「ちょっと、一氏!?」と声を上げても一氏はなにもいわない。とりあえずいわれた通りに目をつぶってじっとしておく。まぶたの裏が赤い。ちょっと歩いて、それからがちゃがちゃと音がした。そしてまぶたのうらの赤が消えて、涼しい空気が体を包んだ。

「連れてきたで」
「おお、ご苦労なーユウジ」
「え、白石?」
「そうや。、ほらこれ」

 目を開けるとそこは部室。涼しかったのは白石が扇風機をつけておいてくれたかららしかった。ソファーに降ろされて、毛布を掛けられた後に渡されたのはお湯入りのペットボトル。

「薬はもっとるん?」
「あ、うん」
「鞄開けても平気か?」
「いいよ。ポーチの中に入ってる」

 そして手渡された薬を飲んで、ペットボトルをおなかに当てた。「ありがとう」というと「気にせんでええよ」と白石がやさしくいう。そして先に部活に戻るといって部室を出ていった。

「一氏も、ありがとね」
「ふん、白石に頼まれたからしゃあないやろ」

 一氏は部室を出ていこうとして、扉の前で一旦足を止めて振り返り、「お前が居らんと調子狂うし、はよ治せよ」といって、部室を出ていった。

(おまけ)
(少し前、部室の前での会話)
「あ、俺、ここまで運んでくるわ」
「はっ?」
「部室も涼しくしといたからな、横にさせてやりたいねん」
「いや運ぶて、あいつ歩けんの?」
「動くのもつらそうやしなあ、お姫様だっこで連れてきてやろうかと思うんやけど」
「しっ、白石がか!?」
「そうやで」
「……だめや!」
「ええっ!?」
「俺が連れてくる!!」
「ちょ、ユウジ!」


「さーいしょっから♪」