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ホラ―な意味とかではないのでおばけとかはいない。だってここは真昼間の学校の教室。わたしのまわりには昼休みのざわざわとした空気、同じクラスのスピードスターと変態なんだかよくわからないイケメン(?)様と、小春ちゃんと一氏がいる。そしてわたしの目の前、視線の元。やたらと大きい背のそいつは実は座高が低いことを今知った。椅子に足ごと乗っかって体育座りするみたいにしてしゃがんでこっちをじいいっとみている。つっこんだらいいのだろうか。誰一人としてつっこもうとしないこの状況に。お笑いに敏感なこの学校ではめずらしいことじゃないんだろうか。 千歳の不思議な行動はいまに始まったことじゃない、けれどこれほどまでに見つめられるとさすがに気になる。あんまりにその視線が熱いのでわたしはさっきから千歳を直視できなくなってしまっていた。 「ねえ―」 「なんですか千歳さん」 「なんか感じんと?」 それってセクハラですかそれとも心霊的ななにかですか。千歳は相変わらずわたしを見つめてくる。黒いセーターで半分隠れている手で顔を支えて。耐えられなくなって視線を外すと色とりどりのカーディガンが目に入った。 この学校は校則がゆるい。もちろんカーディガンの指定なんかあるはずもなく。白石はスタンダードなベージュのカーディガン(似合いすぎ)、謙也はクリーム色、小春ちゃんはホットピンク、一氏は紺色(細身でぴったりしてる)。 小春ちゃん、ピンク似合うなあなんて考えていたら手をちょんちょん、とつつかれた。 「なーにー」 「だから、なんも感じない?」 「だからなにを?」 「テレパシー」 「はい?」 「だーかーらー、さっきから俺にテレパシーおくっとっとよ」 「テレパシー……?」 「うん」 「千歳って超能力あった?」 「んにゃ」 「だよねえ」 「もっかい送るけん、受信してー」 「あーい」 よしじゃあちゃんと受信してやろうじゃないの、とはりきって千歳の目を見つめた。千歳の目にわたしが映る。じいっと見つめあう、けれどなにも頭には響いてこない。 「だめっぽいー」 「えー」 「くちでいってよ」 「やだはずかしい!」 「えええなにそれ」 「だけんテレパシー」 しかたなくまた千歳の顔を見る。不意に横の視界が塞がれた。ノート? 視線を千歳に戻したら閉じた瞼がものすごい近くにあった。頬にはあったかい、ちょっとかさかさした感触。「あ、はずした」と声が聞こえた、気がした。 |