適当に冷蔵庫を漁って、ヨーグルトがあったので食べた。時間的にはもうお昼ごはんの時間だった。 もう今日いちにちは寝て過ごそうかな! なんて考えていたらチャイムがなった。居留守しようかとも思ったけれど、インターフォンの画面に映るもじゃもじゃ頭を見て考えを変えた。急いで玄関へ向かって扉を開ける、と、そこにいたのはやっぱり千歳だった。 「あっ、おはよ、」 「あ、うん、おはよー……って、千歳」 「うん?」 「あの……その格好もだけど、その手に抱えているものは……」 「ひまわり」 それがなにか? とでもいいそうなくらいに自然にこたえた千歳の手に抱えられていたのは、確かに紛れもなくひまわりだった。いや問題はそこじゃなくて、なんで千歳が泥だらけになって根っこごと引っこ抜いたひまわりを持ってるかってことなんだけども。 千歳は唖然としているわたしを傍目に庭の方へと歩きだした。わたしもその辺にあったサンダルをつっかけて外へ出る。日差しが痛い。 「ねーねーー」 「何でしょう」 「これ、ここに植えてもよかと?」 そう言って千歳がゆびさしたのは、庭の一角にあるただの地面。たぶんそこにひまわりを植えても問題はない、はずだ。 わたしがそう言うと、千歳はひまわりを横に置いて手で地面を掘り出した。 「ちょっ、なにしてるの千歳」 「こんひまわりば植えとおよ」 「それは見てわかるんだけど、てゆうかシャベルかなんか持ってくるから!」 どこかにあったはず、と思いあたりを見渡すと、如雨露の隣に置いてあるのが見つかった。それを千歳に渡すと彼はへにゃっと笑って「ありがとー」と言った。その笑顔に不覚にもときめいてしまった。し、シャベルを渡すときに指が触れたのにもどきっとした。 しばらくその後ろ姿を観察。ざくざくと穴をほる千歳はどうやら上機嫌なようで、へたっぴな鼻歌を歌いだした(たぶん、ラピュタで流れていた曲)。でっかい背中だなあ。 穴を掘り終えた千歳は手をぱんぱん、とはたいて(また汚れるのに)ひまわりをそこへ植えた。今度はあまり時間はかからなかった。最後にぺしぺし、と地面をたたいて立ち上がる。 「うし」 「あ、なんか華やかになった」 「えへへ」 結構なおおきさまで成長したひまわりがいっぽんだけ、頭を出している。一応他のところも花は植えられているのだけれど、そこの部分だけは日陰になってしまっていてうまく育たなかったのだ。 ついでに如雨露で水をやる。あ、これからはわたしが世話しなきゃなんないんだ。 「って、千歳、服どろどろ」 「ん? あー、ま、よかよ」 「……千歳ってひとり暮らしだよね?」 「うん」 「それひとりできれいにできる?」 「……うん?」 (あ、絶対できない) 「よし千歳」 「んー」 「うちあがってって」 「よかと?」 「うん」 そういうと千歳はうれしそうにわたしの家へ入ってきてくれた。土汚れってどうやって落とすんだっけ、と考えつつ千歳にTシャツを渡すように促す。千歳のからだをよく見ると、思いのほかどろどろだったのでお風呂も貸すことにした。そのあいだにTシャツを洗濯して、乾燥機に放りこんだところで髪の毛がまだ濡れている千歳がリビングへ来た。濡れているせいで、いつもよりも髪の癖が落ち着いている。 「ねー」 「なーにー」 「髪の毛乾かしてー」 しょうがないなあ、といって千歳からドライヤーを受け取り、立ったままでは無理なのでその辺に座ってもらった。 あんまり髪の毛を拭いていないせいで水がその辺に飛び散って大変だったけれど、髪を伸ばしているわたしよりもずいぶん短い千歳の髪の毛を乾かすのにはそんなに手間はかからなかった。ふんわりとわたしの使っているシャンプーの匂いがする。 千歳があつい! と騒ぐのでアイスをあげて(かき氷のやつ)ついでにわたしもそれを食べることにした。ダイエットするって言った気もするけど、いまは忘れることにする。ちょうどそれを食べ終えるころに乾燥機が鳴った。 「あ、Tシャツ勝手に乾燥機かけちゃったけど、平気?」 「うん」 「よかった。はい」 「あんがとー」 そしてそのあと、わたしの両親が夜中まで帰らないと知ると、「がさみしそうだから」というなんとも千歳らしい理由でわたしが寝るまで家にいてくれた。(というか、いつのまにかわたしが寝てて千歳が帰っていた) 今度会ったら、もっとちゃんとお礼を言おう。 (あ、あとなんでひまわりを持ってきたかも聞かなきゃ) |